イチローやラグビーの五郎丸選手も行っている、一瞬で自分を最高の精神状態にできる「アンカリング」
何か事に臨むときに、うまくしなければいけないという強い思いから、緊張という精神状態になることは誰しも経験があることでしょう。そして、そのせいで、本来持っている力の100%を出しきれずに悔しい思いをしたという経験がある方もいらっしゃることでしょう。
今回のリオオリンピックで、日本選手は過去最高のメダルを手にしましたが、私たちが想像している以上のプレッシャーや緊張にも立ち向かっていたことでしょう。
そんなプレッシャーや緊張に立ち向かうときに役に立つのが「アンカリング」です。
方法は簡単ですので、ぜひ皆さんも身につけて、実践してみてください。一瞬で自分を最高の精神状態にできるようになりますよ。
有名スポーツ選手に見る「アンカリング」の効果
「アンカリング」とはどんなことでしょうか。
船の錨(いかり)のことを英語でアンカーといいますが、その錨を下ろして船を岸壁などに係留させることをアンカリングといいます。
このような意味から、何かの動作をすることで自動的にある特定の精神状態になることをアンカリングといいます。
たとえば、自己暗示もアンカリングの一種といえるでしょう。
今回は、言葉による自己暗示ではなく、動作を伴った「アンカリング」を紹介します。
著名なプロスポーツ選手は、このアンカリングをうまく使っています。
最近では、ラグビーの五郎丸選手が行った、両手を合わせて人差し指を立てるポーズが注目を集めました。このポーズは、「ルーティーン」という言葉で表されましたが、アンカリングとも言い換えることができそうです。
他にも、先日、野球のメジャーリーグにおいて、3,000本安打達成という偉業を成し遂げた、イチロー選手も「ルーティーン」(アンカリング)を行っているスポーツ選手の一人です。
さて、皆さんが目にするバッターボックスに立つイチロー選手は、どんな動作をしますか? 彼は左打ちですので、ピッチャーに向かって右のバッターボックスに入ります。そして、その後右手に持ったバットを垂直に立ててピッチャーのほうに向けて、目をかすめ、左手で右肩のユニフォームをたぐるという一連の動作を必ず行います。
独特のポーズですが、これはイチロー選手にとっての儀式です。では、なぜあのような動きをするのでしょうか。
イチロー選手が行っている動きは、スタジアムのバックスクリーンの電光掲示板に表示されている「ICHIRO」という自分の名前の部分に、立てたバットを合わせて見ているといわれています。
この儀式をどんなときにも行うことにより、イチロー選手の集中力は高まり、最高の心理状態になるというわけです。もっと言えば、バッターボックスに入る前のベンチでの動き、ネクストバッターズサークルでの屈伸運動などの一連の動きも、アンカリングになっているのでしょう。
【イチロー豆知識】
彼がまだ日本でプレーをしていたころには、バットの先端の丸い部分をスコアボードに向けていましたが、アメリカでは、その動きがバットをピッチャーに一直線に突き出すように見え、すごく挑発的な態度だと取られてしまうため、イチロー選手は、相手に失礼があってはいけないと、現在のようなスタイルに変えたというエピソードがあります。
手を合わせるだけで心が静まる「印」
ところで、脳神経外科専門医である医学博士の阿部聡氏によると、いちばん簡単なアンカリングは「手を合わせてみてください」というものです。手を合わせるということは、いちばん基本的な「印」の形であるといわれます。
「印」とは、指をいろいろな形に折り曲げて、仏様の力を象徴的に表すもので、弘法大師、空海が考えたといわれるものです。
そして、この行為は、日本人の皆がある感情をいだくことが多い行為です。つまり、手を合わせるだけで、心が静まるのです。
私たちの脳は、繰り返しの刺激によって、その回路がより強固になっていきます。そして、私たちは、習慣の生き物ともいえるでしょう。条件反射ともいえる、体の動きを伴ったアンカリングは、人それぞれのいちばん合うものを決めて取り組むことで身につけることができる方法です。ただし、効果が実感できるようになるためには、トレーニングが必要です。
七田式のアンカリングの行い方
七田式では、このようなアンカリングの手法を、中高生の受験や部活動、あるいは大人の皆さんのビジネス、資格試験など、「いざ、本番!」に臨む際に、いつも通り、あるいはいつも以上のパフォーマンスが発揮できるように、イメージトレーニングと併せてお勧めしています。
七田眞が皆様にお勧めしていたアンカリングの方法のひとつに、青丸を利用した方法があります。
これは、続けることで効果が上がる、とても簡単な方法ですので、ぜひ皆さんも試してみてください。
【行い方】
まず、直径2.5㎝程度の青丸のシールまたは、自分で青い丸を描いたものを用意します。
自分で描く場合は、きれいな円をコンパスなどで書き、塗りムラのないように青い色で塗りつぶしましょう。
資格試験の受験や仕事のプレゼンテーション、あるいはスポーツなどの試合に向けてなど、皆さんが成功したいと思うことをイメージする際に、その最初に青丸を1秒~数秒程度目にしてから目を閉じ、呼吸を始め、心を落ち着けて、青丸をイメージします。
簡単な動作ですが、毎日繰り返すことで習慣化していきます。
余談ですが、青い色には、私たちの心を落ち着かせる沈静効果もあります。
では、「いざ、本番!」です。アンカリングを実践してみましょう。
いつも見ている青い丸をアンカー(錨)にします。本番の日、例えばスポーツの場合には、使う道具に(テニスでしたら、ラケットのグリップなどに)その青丸のシールを貼り付けておきます。
そして、試合前、試合中など、いざというときには、その青丸を見て、「今日も最高のプレーができる」あるいは、「大丈夫、逆転できる」などと自己暗示をします。
すると、私たちの脳は、日ごろのイメージと実際のプレーを区別しませんので、日ごろ行っているイメージトレーニングのときのように落ち着き、集中した最高のパフォーマンスと同じ、肉体的、精神的条件を整えてくれます。
また、受験やプレゼンテーション、発表会など、スポーツとは違って道具を伴うようなものでない場合は、自分の手の平や指先、爪、あるいはペンケースなどに青丸を描き、見るようにします。
このような日々の取り組みの繰り返しにより、私たちは、集中力も養うことができ、いざ、本番というときにも最高のパフォーマンスを発揮できるようになります。その大きな助けとなるのが、今回ご紹介した「アンカリング」という方法です。
高校球児たちの体験談
最後に、この方法を実際に活用した高校球児たちの体験を紹介しましょう。
―イメージトレーニングに集中できて、大会でも余裕を持って青い玉のイメージをしたり、ルーティーンができたり、守備のときには、丸い円を描き、その中に入って不安な気持ちなどを捨て、精神的には良い状態で試合ができたと思う。
―イメージトレーニングをして、守備の時の外野手同士の壁、キャッチャーが声をかける前後に青い玉を見ることによって気持ちを落ち着けて、守備につくことができました! バッティングの時もネクストサークルでいつもと同じ動きをして、青い玉を見て、自分が次の打席でのイメージをして打席に入ることができた。そのおかげで楽に打て、結果が残せたと思う。
―イメトレをして青い玉をイメージすると、本番でいつも通り落ち着いてプレーをすることができた。そして、あまり調子が良くない時に良いプレーのイメージをすると、その通りにできたので、イメトレのすごさがわかり、毎日寝る前にするようになった。
―マウンドの上で、青い玉を想像することができた。寝る前にイメトレをしていたので、ピンチの時も、自分でビックリするくらい落ち着いていた。試合の前に、球場の外にいる時は少し緊張したけど、球場に入ったら緊張が全くなくなった。これからもイメトレを続けていきたい。
さて、この青丸を使った「アンカリング」の方法は、慣れてくると、本番の際に必ずしも青丸のシールや自分で描いたものを使わなくても、少し目を閉じて青い丸をイメージするだけでも、同様の効果が出てきます。ぜひ、習慣化して活用してください。