プロゴルファー宮里藍やイチローも使う「アンカリング」がもたらす効果とは…。

「イメージ」という言葉は非常に多くの意味、機能を持ちます。

脳力開発におけるイメージとは、イメージトレーニングなど、想像することによって、自分の脳力を高めていくことです。

バスケットボールのフリースローで興味深い実験があります。その実験とは、選手をA~Cの3グループに分け、20日間それぞれ別々のことをしました。

  • Aグループは、毎日、実際にボールを投げてフリースローの練習
  • Bグループは、まったく練習はしない
  • Cグループは、ボールを投げるところを毎日20分間イメージする

以上の3グループでの実験の結果はどうなったのでしょうか?
各グループの以前のスコアと比較したところ、

  • Aグループは24%向上
  • Bグループはスコアの向上が無し
  • Cグループは23%向上

という結果となりました。

脳はイメージしたことと、実際に行ったこと(この場合ではフリースローの練習)を区別しません。
しちだでも、バーチャルリハーサルといって、たとえば、子供たちに、イメージで楽器の演奏をするように指導をしたり、スポーツなどの練習をイメージで行ったりしています。
このようなさまざまなパフォーマンスに対するイメージを描くことは、「いざ、本番」という場面で、非常に効果を発揮します。
そして、このことは、何も子供たちに限ったことではありません。
私たち大人も、ビジネスや趣味、スポーツなどで成功に導くための有効な手段の一つです。

「いざ、本番」に役立つ!宮里藍さんやイチロー選手も使う"アンカリング"

今回は、イメージトレーニングにも有効に働く、動作を伴った暗示のひとつである「アンカリング」について紹介しましょう。

「アンカリング」とはどんなことでしょうか。
船の錨(いかり)のことを英語でアンカーといいます。その錨を下ろして船を岸壁などに係留させることをアンカリングといいます。

このような意味から、何かの動作をすることで自動的に、ある特定の精神状態になることをアンカリングといいます。

著名なプロスポーツ選手は、このアンカリングをうまく使っています。

たとえば、女子プロゴルファーの宮里藍さんです。
宮里さんは、グリーンでサングラスをかけてプレーすることが多いのですが、ここぞという決め時の大切なショットの時には、すっとそのサングラスをはずし、自分の目でコースや芝目を確認するといいます。
この動作は、宮里さんがとても尊敬しているスウェーデン人のプロゴルファー、アニカ・ソレンスタムさんの真似をした動きだそうですが、サングラスをはずすと、その一瞬に空気が変わり、集中力が増してくる方法で、見えている光景は同じでも、宮里さんにとっては、とても有効なアンカリングのひとつだそうです。

もう一人アンカリングを有効に活用している人を紹介しましょう。
それはメジャーリーガーのイチロー選手です。
皆さんが目にするバッターボックスに立つイチロー選手は、どんな動作をしますか?
彼は、左打ちですので、ピッチャーに向かって右のバッターボックスに入ります。
そして、その後、右手に持ったバットを垂直に立ててピッチャーの方に向けて、目をかすめ、左手で右肩のユニフォームをたぐるという一連の動作を必ず行います。
独特のポーズですが、イチロー選手の儀式です。
なぜあのような動きをするのでしょうか。

この儀式は、どんなときも行うことにより、イチロー選手の集中力は高まり、最高の心理状態になれるというわけです。

実はこのような儀式は、イチロー選手の場合、15種類以上の動きをいつも狂いなく行っているともいわれています。
バッターボックスに入る前のベンチでの動き、ネクストバッターズサークルでの屈伸運動などと、一連の動きもアンカリングになっているのでしょう。

 

ところで、脳神経外科専門医である医学博士の阿部聡氏によると、一番簡単なアンカリングは「手を合わせる」というものです。

手を合わせるということは、一番基本的な「印」の形であるといわれます。
「印」とは、指をいろいろな形に折り曲げたりして、仏様の力を象徴的に表すものです。
そして手を合わせるという「印」は、弘法大師、空海が考えついたといわれるものであり、この手を合わせるという行為は、日本人の皆がある感情をいだくことが多い行為です。
つまり手を合わせるだけで、心が静まるものです。

私たちの脳は、繰り返しの刺激によって、その神経回路がより強固になってきます。
そして、私たち人間は、習慣の生き物ともいわれています。
条件反射ともいえる、体の動きを伴ったアンカリングは、人それぞれに一番合うものを決めて取り組むことで、身につけることができる効果の高い方法です。

ただし、効果が実感できるようになるためには、繰り返しのトレーニングと習慣化が必要です。

参考文献

『日本人は150グラム大きい脳で考える』(阿部聡・小松成美著/PHP研究所)