天才 レオナルド・ダ・ヴィンチに学ぶ観察力

天才の定義

天才とは、あらゆるチャンス、刺激、問題に頭を使ってすぐに反応できる人です。本当に天才的な知性を身に付けた人は、人生のあらゆる場面に脳を上手に使いこなします。人間の能力には、言語的能力のほかに、まだ多くの能力があると考えられています。ハーバード大学のハワード・ガードナーは、視覚的、空間的思考こそ、人間の能力の優れたものとしています。

ガードナーによれば、知性には8つの形があるといいます。

  • 言語的知性
  • 音楽的知性
  • 論理、数学的知性
  • 空間的知性
  • 身体的、運動感覚的知性
  • 人格的知性
  • 人間関係的知性
  • 自然、環境的知性

の8つです。

万能の天才だった レオナルド・ダ・ヴィンチ

レオナルド・ダ・ヴィンチは、8つの知性の中の多くを備え、ミケランジェロ、ラファエロと並ぶ、盛期ルネサンスの三大巨匠の一人であり、画業の他、彫刻家、建築家、科学者としても名を馳せる万能の天才でした。

ダ・ヴィンチは、1452年4月15日に、イタリア中部にあるヴィンチ村という小さな村で、私生児として生まれ、幼いころに父方の家に引き取られました。名は、「レオナルド・ディ・セル・ピエーロ・ダ・ヴィンチ」といい、 意味するところは、「ヴィンチ村に住む、セル・ピエーロの息子のレオナルド」です。

ダ・ヴィンチが絵を描くきっかけ

伝承によれば、ダ・ヴィンチが17歳の時(1469年)、父のセル・ピエーロが、ダ・ヴィンチの描いたデッサンを数枚、友人の芸術家アンドレーア・ヴェロッキオのところへ持って行き、それを見たヴェロッキオは、子供の絵にしてはあまりにも優れていたので驚嘆したといいます。

そんなきっかけから、ダ・ヴィンチは、ヴェロッキオのもとで絵の勉強を始めることになりました。ある日、ヴェロッキオのところに、キリストが洗礼を受けている場面を絵に描いてほしいという注文がありました。ヴェロッキオは、早速弟子たちと一緒に、この絵を描くことにしました。

ヴェロッキオが、真ん中に立つキリストの絵を描きます。ダ・ヴィンチの役目は、左端に天使の絵を描くことでした。ダ・ヴィンチは以前から、キリストのような神様の絵を描くとき、不思議に思っていることがありました。それは、それまでの絵描きの大半が、神様を描くとき、決まって特別に立派な、いかにも神様らしい絵を描くことでした。

そこで、ダ・ヴィンチは、「キリスト様だって、私たちと同じ人間じゃないか。決して特別ではない。人間のように描くほうが、ずっと親しみがわき、優しい神様になる」と思い、自分が受け持った天使の顔を、人間の子供そっくりに描きました。

その天使は、子供のように可愛く、優しい姿に仕上がっており、ヴェロッキオが描いたキリストの絵よりも、ダ・ヴィンチの描いた天使の絵のほうが、はるかに素晴らしい出来栄えで、どちらが先生のものかがわからないほどでした。ヴェロッキオは、「私が先生なんて、恥ずかしい」と、もう絵を描くことが嫌になり、それっきり絵描きの仕事をやめてしまったのです。

わざわざ小鳥を逃がした、ダ・ヴィンチの観察力

彼の代表作の一つである『モナ・リザ』の、何か言いたそうに笑っているその微笑みは、心の中の様子をも想像させてくれるものです。

彼は、どんなものでもぼんやりと見るということをせず、動物や植物がどんな様子で、どんな性質があるのか、とことん観察をしたともいいます。あるとき、ダ・ヴィンチは、小鳥屋の前を通りがかり、かごの中にいる鳥を見て、お金を払い、鳥を買いました。しかし、その場ですぐに、その鳥をかごから逃がしてやりました。

ダ・ヴィンチは、鳥が飛び立つのをよく見て、その飛翔する姿を、250枚の絵に分解して描きました。このデッサンは「鳥の飛翔に関する手稿」に詳しく記録されていましたが、彼の観察が正しかったことが証明されたのは、それから350年後、写真術が発明された後になってからのことでした。

デッサンは、物の見方の基本中の基本

ダ・ヴィンチは、デッサンが、絵画技法や物の見方を学習するうえで基本になることを強調していました。

「私は絵を描くのが苦手だから…」と、思われる方がいるかもしれませんが、ここでいうデッサンとは、上手に絵を描くために行うのではありません。目的は、「発見すること」にあります。

デッサンではものをよく見ることが大切です。普段見ているようで見ていない、ものの形、色、素材感を注視することで、ものがどのようにつくられているか、どのように動くものか、発見することになります。 これはこのようなものだと思い込んでいたものが、実は、よく見てみたところ、全然違っていたというような体験をしたことがありませんか?

たとえば、自分の手をよく観察してみてください。

小さなしわ、ほくろ、傷跡、指を動かすときの骨や関節の動き。今まで、まったく気がつかなかった事実に気づくかもしれません。ものを細部まで描くことは、新鮮な目でものを見ることにつながります。

このことは、何もデッサンに限ったことではありません。普段の生活や人間関係においても、ちょっと違った視点で物事を見てみる、あるいは、注意深く物事や他人のことをみてみると、思わぬ発見や気づきも生まれるものです。

ダ・ヴィンチの観察力は、そんなヒントも与えてくれるものです。

参考文献

『七田式 頭を鍛えるダ・ヴィンチ・メソッド』(七田 眞 著/KKロングセラーズ)
『心を育てる偉人のお話2』(西本 鶏介 編・著/ポプラ社)
『ダ・ヴィンチになる!-創造的能力を開発する7つの法則』(マイケル・J・ゲルブ 著/リード・くみ子 訳/TBSブリタニカ)
『ダ・ヴィンチの遺言-「万能の天才」が私たちに残した謎と不思議とは?』(池上英洋 著/河出書房新社)
『レオナルド・ダ・ヴィンチ―真理の扉を開く』(アレッサンドロ・ヴェッツォシ 著/高橋 秀爾 監修/後藤 淳一 訳/創元社)