「幼児教育の効果って?大人になったらどんなことに活かされるの?」
こんにちは!しちだ・教育研究所です。
大切なお子さまの成長のことを思うと、幼児期にいろいろな経験をさせてあげたいですよね。
将来のことを考えて、幼児教育に力を入れようと考えている保護者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。幼児教育と聞くと、国語や算数などの先取り学習をイメージされるかもしれませんが、実はそれだけではありません。
幼児は、生活や遊びの中でたくさんのことを学んでいます。親子のふれあいや自然の中での体験、運動など、お子さまはさまざまな場面で新しいことを学習します。もちろん、友達と遊ぶことも学びのひとつです。
新しいことに挑戦するために、習い事や幼児教室に通っているお子さまもいらっしゃいますよね。
しかし、「幼児期の教育が本当に子供のためになっているの?」と疑問に感じることはありませんか?
幼児教育に力を入れた家庭のお子さまと、そうではない家庭のお子さまとでは、人生にどのような違いがあるのでしょうか。
今回は、お子さまが大人になった時に、幼児期の教育がどのように生きてくるのかについてお話します。
1.「社会から求められる力が、幼児教育で身につく」
2.「幼児教育を受けると人生が豊かになる」
3.「幸せでいるために、幼児期に育むと良い能力とは」
4.「幼児教育は性格形成の第一歩」
1「社会から求められる力が、幼児教育で身につく」
そもそも、大人になる前に、幼児教育によってどのような力を身につけるべきなのでしょうか?法律的に大人として扱われる成人年齢の20歳前後に着目して考えてみましょう。
多くの人にとって、20歳前後で訪れる人生の転機といえば「就職」です。
学生から社会人になるにあたって、周囲の環境や、求められる力ががらっと変わります。
社会から求められる力を持っている人とは、どんな人でしょうか?
IQテストで高いスコアを取った人でしょうか?
それとも、学生時代に良い学業成績を収めた人でしょうか?
答えは、『コミュニケーション力』や『主体性』です。
2018年、日本経済団体連合会は、597社に対して新卒採用に関するアンケート調査を実施しました。「新卒選考にあたって重視した力」のトップ5は、
1位:コミュニケーション能力・・82.4 %(16年連続 1位)
2位:主体性・・・・・・・・・・64.3 %(10年連続 2位)
3位:チャレンジ精神・・・・・・48.9 %(3年連続 3位)
4位:協調性・・・・・・・・・・47.0 %
5位:誠実性・・・・・・・・・・43.4 %
でした。
いかがでしょうか?意外に思われた方も多いのではないでしょうか。
重視されると思われがちな専門性は12%、一般常識は6.5%、学業成績は4.4%で、トップの5項目と比較すると回答率が低めです。
学業成績を評価する際に着目されることが多いのは、知識量、計算力などの結果を、テストの点数や偏差値などの数字に表すことができる「認知能力」です。
しかし、トップ5の項目に挙げられているようなコミュニケーション力、主体性などのように数字で測ることができない「非認知能力」も、生きるうえで必要な能力です。
むしろ、社会人として生きていく上では非認知能力の方が強く求められる傾向にあることがわかります。
非認知能力は、幼児期にさまざまなものに触れて五感を刺激することや、他の人と関わることによって発達します。社会から求められる力を身につけるためにも、幼児期のうちに新しいものに出合い、さまざまな経験をしておく必要があるということです。
では、幼児期の教育によって非認知能力を育つと、大人になった時にどのような影響があるのでしょうか。
幼児期に、非認知能力に重点を置いた教育を受けた子供と、そうではない子供の人生を、それぞれが40歳になるまで追跡調査した研究をご紹介します。
2「幼児教育を受けると人生が豊かになる」
過去にアメリカのミシガン州で行われた、「ペリー就学前プロジェクト」についてご存じでしょうか。 この研究により、ジェームス・ヘックマン氏は、2000年のノーベル経済学賞を受賞しています。
1960年代に、低所得でアフリカ系の58世帯の2~3歳の子供を対象に実施されたプロジェクトです。
この研究では、就学前の幼児を2つのグループに分け、片方のグループに対してのみ、幼児教育を30週間行いました。
この幼児教育とは非認知能力を育てることに重点を置いたもので、毎日2時間の授業と、週1回90分の家庭訪問による指導、毎日の復習などです。復習は、社会的スキルを教えるために集団で行いました。
そのほか子供が自分で考えた遊びを実践するなど、その教育内容は子供の年齢と能力に応じて調整されました。
一方で、もう片方のグループの幼児は、指導を受けていません。
対照的な2つのグループの子供たちを40歳まで追跡調査した結果、教育的・経済的な面で異なる傾向にあることが確認されました。
学力検査の点数、収入の多さ・持ち家率については、幼児教育を受けた子供のグループの方が高くなり、逮捕率・生活保護受給率については、教育を受けなかった子供のグループの方が高い結果となったのです。
教育を受けた 子供のグループ |
教育を受けていない 子供のグループ |
|
40歳時点で 月給2,000ドル以上 |
29% | 7% |
持ち家率 | 36% | 13% |
生活保護の非受給率 | 29% | 14% |
40歳時点の収入について、教育を受けた子供のグループは29%の対象者が月給2,000ドル以上であったのに対して、受けなかったグループは7%のみに留まりました。
持ち家率は、前者が36%、後者が13%でした。
生活保護の非受給率は、前者が29%、後者が14%という結果でした。
1970年代に、このプロジェクトよりも調査を徹底して行った「アベセダリアンプロジェクト」でも同様の傾向が確認されています。
2つのプロジェクトの結果から、幼児期に非認知能力を身につけると、教育的、経済的な豊かさに着目したデータの集計結果において、大人になってから差が生まれることがわかりました。
幼児期に非認知能力を伸ばす環境を与えることは、お子さまが豊かな人生を歩むための第一歩になるということですね。
では、2つのグループでどうして異なる結果が出たのかについてお話します。
幼児期に粘り強さ、やり抜く力などの非認知能力を身につけると、学校に入学してからも学習に意欲的に取り組むことができます。学習に意欲的に取り組むと、学校に通い始めても、授業の理解度が深まり、学習進度へ対応することができます。
粘り強く学習を継続することで、学業成績、つまり認知能力も伸ばすことができるのです。
ペリー就学前プロジェクトでも、14歳時点で基礎学力が身についているかを確認する学力検査を行いました。
教育を受けた 子供のグループ |
教育を受けていない 子供のグループ |
|
基礎学力が理解できている | 49% | 15% |
留年・休学せずに高校を 卒業 |
66% | 45% |
基礎学力が理解できている子供の割合は、幼児教育を受けた子供は49%だったのに対して、受けなかった子供は15%に留まりました。
留年・休学せずに高校を卒業できた割合については、前者が66%、後者が45%という結果でした。
学校の学習にきちんと対応できているかどうかで、進学率にも影響が出ていることがわかります。
進学率が異なると、収入や持ち家率が高くなるのは自然なことですよね。
このプロジェクトでは、幼児期に非認知能力を育てることで、教育面、経済面で相乗的に良い効果を発揮しやすいという結論に至りました。
3「幸せでいるために、幼児期に育むと良い能力とは」
幼児期に教育を施すことで、大人になった時の教育面・経済面で豊かさが変わってくるということがわかりましたが、高学歴で収入が多い=幸せな人生につながるとは限りません。
なぜなら、幸せになるためには心が満たされる必要があるからです。
皆さまは、どんなときに人生の喜びを感じますか?
✅おいしいご飯を食べたとき
✅美しい風景に出合ったとき
✅趣味に没頭しているとき
✅夢がかなったとき
など、人によってさまざまですよね。
幸せに決まった定義はありませんが、どんな場面であれ、自分の願望が実現したときには達成感や喜びを感じるものです。
つまり幸福感を得るためには、自分自身の目標を見つける必要があります。
生涯を通して夢や将来のビジョンを描くためには、『自己肯定感』が大切です。この能力こそ、幼児期にこそ伸ばしておきたい能力のひとつです。
自己肯定感とは、
✅自分に価値があることをわかっている
✅自分の力を信じられる
✅自分は大切な存在だと知っている
ことです。
つまり、自己肯定感が高いほど、自分を信じて、どんなことに対しても前向きに取り組み、プラス思考で、困難なことにもチャレンジすることができます。
私たち大人にとっては当たり前の物事でも、お子さまにとっては新鮮なものだったりします。新しいものに出合って、「あれやってみたい!」「できるようになりたい!」と思う機会も多いはずです。
そんなお子さまの気持ちを尊重して、この機会に自己肯定感を高めてあげましょう!
自己肯定感を高める方法は、いたってシンプル。
お子さまを、否定せず、受け入れることです。
何か失敗をした時も、「大丈夫、また次に頑張れば良いよ」や「これから気をつけようね」と、責めたり、怒ったりせずに、お子さまの考えや頑張ったことを受け入れてあげましょう。
「あなたはあなたのままで良いんだよ」ということがお子さまに伝わることで、自己肯定感が高まります。
再度お伝えしますが、幼児教育は難しいことばかりではありません。
遊びのようなものでも良いですし、ボタンはめなど日常生活で習慣になっていることでも良いのです。大切なのは目標を設定し、達成に向けて取り組むことです。
やりたいことが見つからない…というお子さまには、家事のお手伝いなどをお願いしてみましょう。
次々と目標を達成することで、「できなかったことができるようになった!」という自信が積み重なり、自己肯定感の向上につながります。
物事が新鮮に見える幼児期にこそ、目標は設定しやすいです。
生涯を通じて目標を持ち、達成する喜びを感じ続けるために、幼児期に自己肯定感を高めてあげましょう。
自己肯定感を高めると、先ほどお話した非認知能力も育てることができます。
たとえば、新しいことに物怖じせずに挑戦し続けると、社会で求められる力のひとつ、チャレンジ精神が身につきます。
また、自分で目標を達成しようとする自主性も身につけることができますよね。
幼児期に自己肯定感を身につけておくことで、精神的にも豊かな生活が送れる人に成長してほしいですね。
4「幼児教育は性格形成の第一歩」
幼児期は「生涯にわたる人間形成の基礎が培われる極めて重要な時期である」と、文部科学省も幼児教育の重要性を示しています。
幼児教育は、生活や遊びの中のさまざまな体験が学びにつながるからこそ、その後の人間としての生き方を大きく左右するものになります。
算数や国語などの勉強だけでなく、目には見えにくい非認知能力を高めることで、お子さまの成長後の人生が変わったものになるはずです。
今回は教育面、経済面、精神的な豊かさの視点から、お子さまが大人になった時に幼児期の教育がどのように生きてくるのかについてお伝えしました。
お子さまに合った方法で、のびのびと成長を見守ってあげてくださいね。
参考文献/参考サイト
・『幼児教育の経済学』(ジェームズ・J・ヘックマン著/東洋経済)
・日本経済団体連合会「2018年度 新卒採用に関するアンケート調査結果」
https://www.keidanren.or.jp/policy/2018/110.pdf
・文部科学省「子どもを取り巻く環境の変化を踏まえた今後の幼児教育の在り方について(答申)」第一章
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/attach/1420140.htm
・内閣府「平成28年度 子供の貧困に関する新たな指標の開発に向けた調査研究 報告書」第3章 2.2.(1)保育園・幼稚園等での幼児教育
https://www8.cao.go.jp/kodomonohinkon/chousa/h28_kaihatsu/3_02_2_1.html